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退職勧奨に対して拒否する権利 [仕事を考える]

目に見えない雇用契約
 
正社員は、会社との間で、雇用契約を結んでいる。正社員は、たいてい、雇用契約に関して、会社との間で、雇用契約書を取り交わさない。会社は、雇用契約書を用意しない。だから、正社員の雇用契約は、①採用面接時の口頭でのやり取り、②採用後のeメールのやり取り、等が内容になってくる。給与、休日、就業場所、職種など、重要なことが口頭で決まってしまう。

 一方、西欧では、サラリーマンは会社との間で、雇用契約書を取り交わしていることがほとんどだ。実際の例を見せてもらうと、3ページから5ページにもわたっていて、内容がかなり詳しい。さらに西欧では、これを毎年、更新することもある。なぜ日本では雇用契約書を結ばないかというと、①会社が労働者との間の雇用契約を尊重していない、②左記①に関して労働者が主張していない、ということになるだろう。日本は、雇用契約に関する概念は、法令や判例に関する限り、西欧と同じである。だから、日本で雇用契約書がないのは、西欧は「契約社会」で日本は「情緒社会」だからだとい理由は、まったく当てはまらない。「私は、会社への気持ちで働いているのであって、雇用契約で働いているわけではない」「日本人は西欧とは違って、法律で働いているのではない」という考えもあるだろう。そうした考えであれば、賃金支給を拒否しなければならないだろう。

 正社員の場合は、雇用契約書があってもなくても、法律的には「期間の定めのない労働契約」を結んだことになる。正社員は、会社との間で、対等な立場で、この「期間の定めのない労働契約」を結んだことになっている。「期間の定めのない労働契約」は、定年まで続く。例えば、ある新人が22歳で入社して、会社の定年が65歳であれば、「期間の定めのない労働契約」は43年間続く。会社の立場に立ってみると、43年間も人件費を支出しなければならないので、大きな固定費となる。そのため、会社は「期間の定めのない労働契約」ではない契約を結ぶことが出来る。これは、法律的には「期間の定めのある労働契約」といって、5年以内の契約期間を定めることが出来る。しかし、労働者の立場に立ってみると、雇用契約が5年以内であれば、将来の生活設計が立たないので、リスクがあると考える。会社のほうが、「期間の定めのある労働契約」に関して、多額の収入をオファーすれば、こうしたリスクを回避できるのだが、会社はわが社への忠誠心が欲しい上に、多額の収入をオファーするのは、もったいないと考える。だから、会社は「期間の定めのある労働契約」という制度を活用せず、労働者との間で「期間の定めのない労働契約」を結ぶのである。

 なお、西欧では「期間の定めのある労働契約」が活用されていて、ホワイトカラーでは生活費を大幅に上回る収入が保障されていることがある。西欧では、義務教育の段階から職業教育が盛んなので、新卒市場というものがない。だから、労働者が、ステップアップのためにリスクを取る生き方をしている。西欧では日本と違って、①労働組合は、会社と癒着しておらず産業別で強い。②裁判所がきちんと機能していて、雇用労働関係の裁判所があり、労働者は躊躇なく会社を訴える。③行政が機能していて、違法があれば役所は会社に調査に入る、④義務教育での職業教育が盛んで、また社会人に対する公的な職業教育も盛んである、等の違いがある。日本では労働社会や制度について、発達が不十分である。日本の労働者は、リスクを取らないと、経営者などが指摘することがあるが、雇用労働関係でリスクを取れる環境にないので、リスクを取りたくても取れないというのが実情である。なお、日本の経営者は、サラリーマン出身者が多く、おじさんになってから経営のかじ取りをやっているただのおじいさんということが多い。彼らは、ビジネス誌などで「全員野球」「豊臣秀吉になった気分で経営を頑張る」等と、無教養丸出しのコメントを出して恥じないが、これは日本ならではのことである。日本の会社経営が、浅はかに見えるのは、経営者の質にも問題が生じているためであろう。

 さて、雇用契約の話に戻ると、経営者は経営が悪くなると、労働者の「期間の定めのない労働契約」を、一方的に解除しようとする。ある程度教養があれば、「経営が悪いのはどういう経営判断に原因があるのか」「技術革新を取り入れているか」「機会を追求せず、一方で問題解決が遅いのではないか」と、経営者はある程度考えるものである。しかし、上記のような問題があるので、経営者は考えず、浅はかな状態になってくる。そうして、経営の失敗を、労働者に押し付けるという形になる。しかし、法律的には「期間の定めのない労働契約」では、労働者を定年まで雇わなければいけないのだから、経営者は無理強い出来ないのである。

退職勧奨に対して、拒否する権利
 退職勧奨とは、「期間の定めのない労働契約」に関して、労働者側の意思で契約を解除して欲しい、という経営者の申し出である。この退職勧奨に対して労働者の側には、①断る権利と②受け入れる権利の、2つの権利が生じる。つまり、退職勧奨を受けたが辞めたくなければ、①を使えばいいのである。退職勧奨を断るに当たって、理由は必要ない。退職勧奨に当たっては、経営者に「辞めてくれないか」と依頼されたら、「いえ、辞めません」と応えればいいのである。退職勧奨に対して拒否して、後日さらに退職勧奨があれば、再び拒否すればよい。1回目の退職勧奨に対して、「しばらく検討させて下さい」「家族と相談させて下さい」等と、Noをハッキリ言わず、あいまいにしていると、たいてい、「どういう結果になったのか」等と、2回目の退職勧奨があるのだ。労働者は、「どうしようか」と葛藤のあまり、強いストレスを受けて、うつ病を発症することがある。しかし、退職勧奨をハッキリ拒否すると、退職勧奨はたいてい止むのだ。

 経営者は勘違いして、威張って退職を申し出ることがある。「外の世界にチャレンジしてみないか」「今の働きでこの会社でやっていけると思っているのか」「会社に迷惑をかけている」「早く退職届を出せ、業務命令だ」「退職届を書かなければ、解雇する」等である。これは、経営者が労働者に対して、退職を強制しているので、退職勧奨の範囲から外れて、退職強要といえる。法的にみると、退職勧奨は適法なのだが、退職強要は違法である。たとえ退職強要に遭っても、労働者は労働契約の解約を断る権利があるので、冷静に「いえ、辞めません」と応えればいいだけである。断るに当たって、理由は必要ない。そもそも、退職強要は違法なので、とりあえず冷静に対処して、その後、対応策を考える必要がある。

 人間というのは弱いもので、入社間もない兄さんでも、家族持ちのおっさんサラリーマンでも、退職勧奨を受けるとおおよそ2週間位で精神的に参って、うつ病になるようだ。こうした労働者は上記のようなことをまったく知らず、自分に労働契約の解約(退職勧奨)を拒否する権利があることを思いもよらず、実際は断れず悩むことが大部分である。退職勧奨では、経営者は「辞めてもらえるのか」「辞めないのか」という、シンプルなyesかnoを尋ねているのだから、どちらかを応えればいいのである。労働者は「noと応えると大変なことになるのではないか」と思い悩むが、現実には逆で「yes」と応えれば大変なことになる。「yes」と言えば、会社にいちばん都合のいい形で、つまりコストゼロで辞めさせられるだけだから会社が100%得をして、労働者はまったく得にならない。これは、ちょっと考えれば分かることである。では「no」と言えばどうなるのだろうか。これは神のみぞ知る。しかし、たいてい2回目の退職勧奨はなくなるので、精神的にはやや楽になる。だから、退職勧奨に対しては、自分がどうしたいかという考えをまとめてみるとよい。自分の意思が重要である。

 退職勧奨というのは、サラリーマン生活ではよくある話で、病気やけがをした時、年齢が高くなった時(肩たたきと呼ばれることもある)などに、されるものだ。だから、対処法は労働者にとって基本である。ビジネスマナーのハンドブックに、経理やパソコン、身嗜みの解説と共に、掲載すべきことだろう。私も書店をうろついたのだが、以上のようなことを明確に書いた本は、見たことがない。

 退職勧奨に対しては、「no」と言わなければ、退職を防ぐことが出来ない。退職勧奨に対しては、「yes」と言えば労働者が100%損という事態に陥るが、「no」と言えば労働者が100%損であるという事態だけは避けられる、といえる。会社は、退職勧奨を労働者から拒否されれば、それ以上、退職勧奨は法的をやらず、退職勧奨を受け入れてくれそうな、別の労働者に退職勧奨を始めることがある。または、仕事を干してパワハラをして、嫌がらせをして、会社に居づらくする。転勤させて、困らせるということもある。

 だから最終的には、会社と労働者との間で、何らかの和解が必要である。労働者は退職勧奨を拒否して、時間を稼いだら、労組に加入するか弁護士(労弁)を代理人に立てて、とりあえず闘ってその後交渉して、何らかの和解を探る必要がある。オトナの和解というのは金銭なので、金銭和解+合意解約(退職)となることが多い。退職勧奨に対して、拒否すると、タダで辞めるのではなく、退職条件を整えて、つまりいくらか金銭をゲットして、辞めるということになる。

会社への報復、内部告発をしないこと
 退職勧奨や退職強要を受けると、労働者はこれを拒否するという基本的なことをやらず、会社に報復しようとすることがある。ドラマチックともいえるが、こうしたことは、労働者は避けなければならない。報復すれば、労働者にとって、悲劇である。就業規則違反となって、懲戒解雇の対象になる。報復の事実があれば、懲戒解雇は法的に有効で、労働者は再就職が困難になる。

 内部告発は、日本は制度的に不備があって、内部告発者が保護されない。公益通報者保護法はザル法である。新聞をよく読めば、内部告発者が監督官庁へこっそり通報すると、監督官庁は対象の会社へ、内部告発者の氏名を告げてしまう事件が多発している。日本の監督官庁は内部告発があっても会社へきちんと監督せず、むしろ内部告発者を不利に陥らせるような動きをしてしまう。

 私は新聞記者として、10件近い内部告発を記事化したが、内部告発者を保護するため、非常に神経を使ったことを覚えている。内部告発者を保護出来なければ、記事にしないという覚悟が必要で、ものすごい労力が必要であった。監督官庁から、取材時、「誰から告げられたのか」と尋ねられたが、絶対に言わなかった。監督官庁は、だいたい私に尋ねること自体が、無神経である。私は、内部告発者の氏名については、上司にも言わなかった。私は既に退職しているが、記事化したもの、記事化しなかったもの、両方について、私は今も守秘義務を負っている。

 そもそも社会人として、常識的に考えてみて、会社へ報復してはならない。また、正義感から内部告発したいと思っても、退職勧奨などされていない、精神的に安定している時期に、冷静に検討して、100%バレないようにするべきであるし、バレた場合のこともシミュレーションしてからやるべきである。退職勧奨や退職強要に対しては、伝統的な対処のノウハウがあって、それは会社への報復や内部告発とは、まったく関係がない。逆に言うと、報復や内部告発が成功しても、退職勧奨や退職強要の問題は、決して解決しない。報復や内部告発すれば、退職勧奨や退職強要に関して、解決は非常に困難になる。

 裁判になっている労働訴訟を検討すると、①会社が退職勧奨や解雇している、②その後、労働者が内部告発している、というケースが散見される。本来であれば、①だけで済むという、シンプルな法的問題なのである。ところが、労働者が②を生じさせて、問題を複雑にしている。解雇や退職勧奨というのは、頻繁に裁判所に持ち込まれる話であって、解決パターンがほぼ決まっている。しかし、内部告発はそうではない。裁判官は、サラリーマン社会を経験してないので、内部告発の価値が、よく判らない。

 退職勧奨や退職強要は、どちらかというとシンプルな法的問題であるから、労働者側からわざわざ複雑にしないことである。自分から複雑にしてしまうのは、冷静さを欠いている。


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