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タイム誌にみる企業の“みそぎ研修” [仕事を考える]

  日本の大企業の後進性や復古主義を象徴するものとして、社員が冷たい川にふんどしひとつで飛び込むという、みそぎ研修を評論家佐高信が激しく批判している。修養団という組織が行っているそうだ。修養団によると、この研修の目的は「こざかしい理屈を捨て、バカになって物事に挑むきっかけを掴ませるのだ」(『日本の権力人脈』p.73)というのが狙いだという。

 若手の世代にとっては、上司や取締役が無能で困っているのにもかかわらず、みそぎ研修に参加させられ、何と自分のほうが「バカ」にならなければならないとは、何たることだろう。それはファシズムである。

 国際的にはタイムの若手記者がこのみそぎ研修を取材して、1980年代のタイムに記事を掲載していた。タイムは世界各国で読まれているから、アジアのビジネスマンはどんな気持ちでこれを読んだのだろうか? 日本の侵略主義を、日本企業が復調していると思うかもしれない。以下は私の翻訳である。下線部は注だ。

鍛錬-元気回復、バンザイ方式(「タイム」1983.1.31号)
 大阪から80マイル(約128キロメートル)東で、日本神道の最も尊い神社の拠点の、伊勢に夜がやって来た。川岸で、指導者の命令を待つ80名かその位の数の男性は、五十鈴川の、冷たい(華氏33度(摂氏1度))、物静かな水を見ることができた。指導者が怒ったように大声を出すと、その集団は川の中を歩いて渡って、魂の復活と浄化を祈りながら、一斉に唱え、叫んで、うなる。そして、彼らはただ腰巻だけをまとって、集落の道を黙って走る。
 
  カルト集団の洗脳かのように見えるものは、実は、
日本企業の従業員のための「トレーニング時間」である。チームスピリットを学び、チームの達成を感じて、そうすることの中で、おそらくは、よりよい、より生産的な労働者になれという、経営者の命令に従って、彼らは伊勢にいるのだ。伊勢修養団のナカヤマ・ヤスオ理事は「私たちは彼らに苦しんで欲しい。私たちは彼らに痛みを感じて欲しい。しかし、私たちはまた彼らに楽しんで、歌って踊って欲しい。私たちは彼らに古い自分自身を空にして、新しい人間になって欲しい」と述べる。

 4日間連続の授業は、1か月当たり2回開かれて、授業は17歳から60歳までで約90%が男性の、労働者を引き寄せている。企業はその労働者に出席することを要求しないが、しかし、センターの200ドル(約2万円)の料金をすべて支払って、伊勢にいる間の労働者の給料を差し引かないことによって、強く出席するように奨励している。日立、三菱、トヨタ、そして丸紅を含む、多くの日本の大企業は、1度かそれ以上の回数、これまでに従業員を伊勢に送り込んだ。

 巨大な太鼓(25フィート(約7.6メートル))を鳴らして、寮の中の訓練生を眠りから起こすことで、1日が始まる。ベッドの中には、それぞれ異なった企業から来て、1つの部屋の中に入った8人の労働者がいる。彼らは、たいていはジャージの上下の、真っ白な衣服を身に付けてて、ほうきをぎゅっと掴んで、そこらを掃除する。その時、彼らは国歌である「君が代」を歌いながら、国旗掲揚のために一列に並ぶ。

 朝食後、3つから4つの授業が始まる。両親や子女に対する義務や、しっかりと組織された日本社会の居場所における、男女の社会的役割などについての授業がある。例えばチームで樹木の幹やセメント製のベンチを動かす努力などの、強制的に体を動かす活動もまた存在する。最後に氷のように冷たい五十鈴川に浸かって、クライマックスに達するのだ。

 訓練生の大多数は、その体験を心地よく感じて、リフレッシュして、そして、元気を回復させて、職場に復帰する。ところが、それほど情熱的ではない卒業生もいる。26歳の事務員は「しばらくの間、違ったように感じるが、その後、正常に戻る」と述べている。トヨタで働くフォークリフト運転士のオガワ・スズコ(19)は、伊勢での授業は励みになると強く主張する。彼女は「しかし、授業は忘れやすい」と述べる。

 伊勢修養団は、1907年に一種のボーイスカウトのキャンプとして設立されたが、戦後アメリカの占領の間、機能を停止したものの、過去たった2,30年の間で企業社会にサービスを提供し始めた。極端に国家主義的で軍隊的だとして、日本のマスコミはそれを批判した。すべての壁には天皇と皇族の写真が掛かっているようだ。訓練生によって歌われる歌は、ずばり愛国的で、日本を平和と美の国として、「神の国、バンザイ!」と賞賛している。しかし、ナカヤマ理事は、伊勢修養団の目的はただ1つで、より良い人間を育成することで、家庭や学校が決して教えないことを教えることだと主張する。それは、愛と分別と、世界のどこへ行ってもそこで完遂して勝つための使命感だというのだ。


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コメント 2

山口

オウム真理教を全く笑えないんですが、この辺の問題点、日本の企業人に理解している人、ほとんどいないでしょうね。
こんなザマだからダメになっているというのに……。
by 山口 (2019-01-13 15:33) 

メイのかつおぶし

山口さま コメントを有難うございました。きょう中公新書『日本軍兵士』というのを読みました。太平洋戦争の犠牲者310万人のうち9割が敗戦の1年半前に集中しているそうです。人命軽視、尊厳軽視というのが日本の国家や組織の課題です。
by メイのかつおぶし (2019-01-14 22:49) 

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